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Emerging Markets Watch
カーティス・ミューボーン | 2007年1月

エマージング市場‐市場動向と
今後の見通し

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2006年、米ドル建てエマージング債券市場および現地通貨建てエマージング債券市場はそれぞれ9.9%15.2%の上昇となりました1。ここ数年で見られた同市場における構造面での改善が米ドル建てエマージング債券市場における対米国債上乗せ金利(スプレッド)の縮小とエマージング諸国内における国内金利水準の低下をもたらしたといえます。ただし、過去数年で構造面において大幅な改善が見られたにもかかわらず、同じく2006年には同市場には依然として重大なリスクがあることが露呈されました。今回のレポートでは、2006年のエマージング債券市場を振り返ると共に、2007年の見通しについてご説明したいと思います。

 

2006年に見られたエマージング債券市場のリスクとして第1に挙げられるのは波及リスクです。5月および6月にみられたG3諸国における金利上昇懸念は米ドル建てエマージング債券市場および現地通貨建てエマージング債券市場双方の全面的な売りに繋がりました。実際、この影響ははエマージング債券市場のみならず、多くの先進国およびエマージング諸国の株式および債券市場双方に波及しました。PIMCOでは、エマージング市場全体の経済、金融面でのファンダメンタルズは依然として良好なものとみているため2、外部要因による市場の下落は一時的なものであり、同市場に悪影響を与え続ける可能性は低いと判断しました3

 

PIMCOではエマージング債券市場に対して中長期的に積極的な見通しとしており、同見通しに基づくと、外部要因による価格の下落は、スーパーの店頭に「全商品10引き」と書かれた札が掲げられているようなものです。だからといってすぐに買い漁る必要はありませんが、良好な投資機会であることは間違いありません。2007年の5月および6月に再び同じような現象が起きると予想しているわけではありませんが、興味深いことに、こういった現象は2005年の56フォードおよびGMの格下げ2004FRB(連邦準備制度理事会)による利上げ2003米国金利の変動2002ブラジル大統領選挙に関わる懸念にも発生しており、そのいずれもが良好な投資機会であったことが証明されています。

 

2006年に浮上した第2のリスクは政治リスクです。9月にはタイで軍事クーデターが発生し、10月にはエクアドルの大統領選挙で左派候補が有力であることが明らかになりました。市場参加者は当初、こうした動きを重要視しませんでした。おそらくそれは2006年に予定されていた数多くの政治的イベントが市場参加者にとって好感できる結果となったためでしょう。

 

しかし、残念なことに12月に入ると、こうした政治リスクは金融リスクへと姿を変えました。タイの軍事政権は外為取引規制を導入し、これによりタイ株式市場は約15%下落、政府はその後同規制に対する追加措置を余儀なくされました。また、エクアドルにおいては大統領に選出されたコレア氏と彼が指名した次期財務相がエクアドル政府債務の「再編」を行う意向を示しました4

 

エクアドルの事例は興味深い内容であるといえます。産油国であるエクアドルは2004年から2005年にかけて同産業から莫大な利益5を挙げたことから大規模な債務の返済が可能となり、エクアドル債自体、同期間に良好なリターンを挙げました6。しかし、2006年3月にエクアドル政府がオクシデンタル石油の管理する油田施設を事実上国有化したことから、PIMCOではエクアドル政府の債務返済「能力」ではなく、債務返済という「行為」に対して疑念を抱きました。さらに、ポートフォリオ・マネージャーが同国を訪問したところ、多くの大統領候補とその支持基盤の質に対する懸念も新たに浮上しました。また、エクアドル債の大半は額面での繰上げ償還条項が付与されているにもかかわらず、この時の市場価格は額面を上回っており、市場はエクアドルのリスクに対する危機感を失っているものと思われました。リスクが高まっていることとさらなる上昇余地がわずかであることから、PIMCOでは大統領選の第1回投票が始まる前に約8億ドルのエクアドル債7を売却したのです8

 

今思うと、この慎重な運用判断は不測の事態クーデター、選挙結果などを予測できたからではなく、適切な運用判断には厳格なリスク管理の下、潜在的なリスク・リターンを評価することが常に必要であるという、PIMCOの投資哲学があればこそ可能となったものといえます。

 

2007年の市場見通し

金融市場における波及リスク、政治リスク、そして債務の返済意欲というリスクは依然として市場参加者が直面している問題であるといえるでしょう。上記を踏まえた上で、PIMCOがエマージング債券市場を考える上で2007年に重要だと思われる要因についてご紹介しましょう。

 

まず、短期的な要因に左右されない大局的な展望からお話致します。これまで数年にわたって持続してきた世界的に良好な経済・金融環境は今後も続くものと思われます。2007年における世界の経済成長率は5程度と予想され、これは近年にみられる高水準の経済成長が持続するとの見方を反映したものです(チャート1)。主要先進国の経済成長は減速するものの、世界的には高水準の成長が維持されるでしょう。また、近年エマージング諸国が世界経済にとって重要な原動力となってきたことから、主要先進国の景気動向と世界全体の景気動向の間にみられた相関は低下を続けています。(チャート2)9。この現象は世界経済の安定要因となり、エマージング市場にとって好ましい環境であるといえます10

 

                  

           

                    

 

次に、良好なマクロ要因がどの程度エマージング債券のリスク・リターンに反映されているかをみてみましょう。米ドル建てエマージング債券市場の過去におけるリスク/リターンを検証すると、リスク調整後のリターンは明らかな改善傾向を示しています。エマージング諸国におけるファンダメンタルズの改善と世界的に良好な経済環境を背景にリスクが大きく低下する一方で、リターンは堅調な水準を維持していますチャート3)。PIMCO2007年もこうした要因がエマージング債券市場の支援材料になるものと予想しています。

 

                    

 

また、今後さらに魅力を増す可能性が高い投資対象は、依然として利回り水準が先進国に比べて大幅に高い現地通貨建てエマージング債券市場であるといえますチャート4PIMCOは、この現地通貨建てエマージング債券市場こそ次に大きな発展がみられる市場になると考えています。良好な経済ファンダメンタルズと、財政・金融政策改革の下に進む市場の整備は、エマージング諸国の国内金利が先進国の水準に近づいていく上での基盤となるでしょう。

 

最後に、焦点をさらに絞り込み、2006年にみられたリスク要因がエマージング市場全体やエマージング各国にどのような影響を与えるかをみてみましょう。金融市場における波及リスクに関しては、PIMCOは金融市場の大きな変動は今後も発生するものと予想しているものの今年も5月かもしれません、こうした変動は一時的なものになると考えています。政治リスクについては、特にブラジル、コロンビア、メキシコ、ペルーでは大統領選が終わり、今後は政策の実行が次の焦点となるでしょうといえます。そして、金融リスクに関しては言うまでもなく巨大な経常赤字を抱えるハンガリー、トルコ、南アフリカといった国々に主に存在しているものと考えています。

 

2007年も恐らく予想外の事態が発生することでしょう。しかし、PIMCOではこれまで通りお客様の資産を慎重かつ適切と思われる方法で運用する所存であり、2007年も厳格な運用哲学の下、全力で取り組んで参りたいと思います。

 

 

カーティス・ミューボーン

エグゼクティブ・バイス・プレジデント

 

 


 

1    JPモルガンエマージング・マーケット・ボンド・インデックス・グローバルおよびGBI-EMグローバル・ダイバーシファイド

2    EMW 20063月号『問題は経済なんだ』と20069月号『それは安全かい』を参照。

3    EMW2006 6月号『終わりではない』を参照

4    再編」とは、利息支払額を減額し、債券の残存期間を伸ばすことを意味するものと思われ、いずれも投資対象の価値を低下させるものです。

5モルガン・スタンレー社の調査によると、エクアドルが手にした石油輸出収入は20051年間で22億ドル、2006年上半期で16億ドル。

6    JPモルガン・エマージング・マーケット・ボンド・インデックス・グローバルにおけるエクアドル・サブインデックスは20031231日から20051231日の期間で17%のリターンを達成。

7    エクアドルの政府債務発行残高の25以上

8    その後、債務再編の懸念から、債券市場は25ポイントもの下落

9    チャートに示した相関は10年間ローリング

10チャートに示した価格変動率は5年間ローリング

 

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