総動員
(著者のペットであり、早朝の話し相手でもあるウサギ、バンバンとの会話より)
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ポール・マカリー(以下「PM」):おはよう、バンバン。年末恒例のおしゃべりの準備はできたかな?
バンバン(以下「BB」):また? それに準備はできたかって聞くなら、私にじゃなく、ご自分に対してでしょう? 見るからにげっそりしているわ。こき使われたうえに、お世話もしてもらえなかった馬のようよ。ずっと見かけなかったけど、どこに行っていたの?
PM:まずもって、私は馬なんかじゃないよ。おっしゃりたいことは分かるけどね。私がどこにいたかは、前もって言っておいたと思うけど。仕事をしているか、海辺の小さなコテージで過ごしていたんだ。週末の隠れ家として借りたんだが、海を見ていると心が安らぐので、今はもっぱらそちらで過ごしているんだ。つまり、君はこの広い家を使い放題というわけだ、お姫様。
もちろん、息子のジョニーが大学から戻ってくる時は別だけどね。息子は、海辺のコテージよりも、この家がお気に入りのようだ。私が滅多にいないことだけが、理由じゃないと睨んでいるんだが。これは、単なる勘だけどね。君は何か知っているかい?
BB:しらじらしいことを言うのはやめて、マック。ジョニーは19歳で、ガールフレンドの数は、FRB(米連邦準備制度理事会)の流動性供給制度の数よりも多いのよ。これだけ言えば十分でしょう? もっとも、デートの相手を見せびらかす度に、新鮮なロメイン・レタスを一玉、私にくれるべきだと思うけど。言っとくけど、ジョニーは家の中を我が物顔で歩き回ることができるけど、私はずっとあなたの書斎でじっとしていなきゃならないのよ。
PM:わかった、わかった。その件については、君のためになるようにするよ。ところで、君は、どうしてまたFRBの流動性供給制度なんて知ってるんだい?
BB:決まっているじゃない。ジョニーが説明してくれたのよ。「ベン・バーナンキ銀行」は、「パパ銀行」が息子であるジョニーに対してしてくれているのとおなじことを、資本市場に対してしているんだって。つまり、どんな担保でも気前よく流動性を供給していて、もっと社会的に認められ、責任ある行動を取ると約束するだけでも担保になるんですって。
PM:それは正確じゃないな、バンバン。まぁ。パパ銀行に関しては合っていると言えるかもしれないが、ベン銀行はそうじゃない。一般原則として、米連邦準備理事会(FRB)はお慈悲で金を貸しているわけじゃない。優良な担保を取っているんだ。
BB:あなたがジョニーにおカネを貸す時に、おカネが返ってくるまで、iPodを預かって机の引き出しにしまっておくのと一緒ってこと?
PM:まぁ、似たようなもんだが、FRBの場合は、iPodを買った時の値段を、そのまま貸すわけじゃないんだ。中古で売る時の値段から少し差し引く。いわゆる掛け目(ヘアカット)というやつだ。
BB:ベンは、融資の担保にiPodを取る時、散髪(ヘアカット)して、ついでに髭も剃ってこいと言うの?
PM:そうじゃない。それも悪くないけどね。FRBがやっているのは有担保融資で、ヘアカットというのは、担保の処分価値に対して、貸し手が安全のために要求するマージンという意味なんだ。君が引き合いに出すiPodで、新品が200ドル、中古が100ドルだとすると、FRBが貸すのは100ドルどころか、そこから更に掛け目をかけた(ヘアカットした)75ドルというところだろう。
BB:つまり、ベンはジョニーのiPodを預かって引き出しにしまい、75ドルを貸す。そして、ジョニーがお金を返さなかった場合、75ドル以上で売るってこと? 今は100ドルだとして。
PM:ああ、大体の仕組みはそういうことだ。もっとも、FRBの融資制度でiPodを担保にとったという話は聞いたことがないけどね。パパ銀行が、本当の意味では、銀行ではなく慈善事業なのとは、大きく違うんだ。
BB:でも、ジョニーは私に、FRBはパパみたいになれるって言ったのよ。理事会が緊急事態だと宣言すれば、誰に対しても、どんな担保でも、ノンリコース(非遡及型)で貸してくれるんだって。確か、33条がどうのこうのって言っていた気がする。ジョニーが間違ってるの? 高い授業料を払って通わせているというのに、あの有名大学で間違ったことを教えられているのかしら?
PM:ジョニーの答えは、まったくの間違いではなくて、不完全というところだね。ジョニーが頑張って部屋を掃除しても、ピカピカにはならないのと同じようなものさ。根拠は、33条じゃない。1934年FRB法の13条第3項だ。FRBは誰に対しても融資できるが、担保が何でもいいわけじゃない。
FRBは、(1)FOMC(連邦公開市場委員会)ではなく、理事会の超過半数が、「異例かつ緊急」の事態の影響で、融資が必要であると宣言し、かつ(2)FRBの融資責任者が「満足する裏付けか担保がある」限りにおいて、融資できると書かれている。
BB:それは専門的で細かい点ね。ジョニーは大体、正しかったのね。振動器で揺れているものがあるとFRBが宣言すれば、FRBは振動器の電源を切ることが法律で許されている。電源を切る必要のある振動器だと宣言する義務を果たせばね。ジョニーはこう言ったの。ベアとかいうおっかない(stern)奴が、電池の抜かれたiPodの束を担保に、お金を借りなくちゃいけなくなって以来、FRBはそうしているんだって。
PM:ジョニーに経済学を教えた先生に一言、意見しなくちゃいけないな。学生には、現実の経済学を教える前に、教科書の経済学を教えるべきだって。だけど、確かにそうなんだ。この3月、FRBは、1934年に法律が制定されて以来、初めて13条第3項を発動した。そうでなければ法的に認められない巨額の融資を実施したんだ。
だけど、融資の相手は、ベアという名のおっかない奴じゃない。メイデン・レーン LLCという名のSPV、いわゆる特別目的会社なんだ。このSPVは、ベア・スターンズという投資銀行が保有していた、危ないモーゲージ商品を担保に融資するために設立された。FRBがこの融資を実施したのは、ベアをJPモルガンという銀行に吸収してもらい、ベアが破綻して、金融システムが吹き飛ばされる事態を避けるためなんだ。
BB:あまりに専門的で、細かすぎるんじゃない? あなたのボスのビル・グロースが言ってたことは当たってるわね。あなたは細かすぎる時があるって。ジョニーは、要点は押さえていると思うけど。違う? この場合、FRBの融資の原則は、パパ銀行の原則に似ているってことだけど。違う?
PM:「違う?違う?」って、一体どうしたんだい、バンバン? 証人を誘導する弁護士みたいだぞ。ジョニーがロースクール(法律大学院)の女の子とデートし始めたわけじゃないだろう?
BB:私は聞いていないわ。幸いジョニーは、まだ大学二年生だし。ちょっと、あなたをからかってみただけよ。だけど、ジョニーの説明だと、FRBはベアに対応する際に、ずいぶん斬新なことをしたそうね。ベアの不良資産300億ドルを、メイデン・レーンに移して、JPモルガンには、10億ドルの損失だけ負担すれば、残りの290億ドルはFRBが肩代わりする、JPモルガンには損失は及ばないって保証したんですって。それって本当?
PM:ああ、本当だ。FRBの融資としては、極めて異例だ。そしてFRBは、法律的にこの融資が容認されるように、異例の事態だと宣言したんだ。
BB:でも、FRBは「担保」を取らなくちゃいけない、って言わなかった? どうして、電池の抜かれたiPodを担保に300億ドル融資して、JPモルガンが最初の損失10億ドルだけを負担させることが、有担保ローンになるの?
PM:バンバン、もういい、分かった、分かった。好奇心旺盛なのは大いに結構だが、時には、ありのままの現実を受け入れなくてはいけないこともあるんだよ。教科書に書いてある、こうあるべき、ということではなくてね。
君のおかげで昔のことを思い出したよ。25年ほど前、ポール・ボルカーがFRBの議長に指名された時のことだ。経済専門チャンネルのCNBCができる前のことで、当時、私のように、フェド・ウォッチャーと呼ばれる仕事をしている人間は、実際にワシントンに飛んで、年に二回のボルカーの議会証言を聞いたものだ。
名前はとうに忘れたが、議員のひとりが徹底的にボルカー議長を追及したんだ。あることについて詳細に説明するよう要求したんだが、議長本人は詳しく言いたくなかった。そこで、議長は葉巻をぐっと吸い込み、大きな煙を吐き出してこう言った。「議員、われわれは、やることをやり、やらないことはやらなかった。以上です」。そしてこれ以上、説明の必要はなかった。
BB:ちょっと待って。そのボルカーって人は、議会で証言する時に、葉巻をくゆらしていたの? 議会は屋外で開かれたの?
PM:そうじゃないよ、お姫様。議事堂の公聴室で開かれたんだよ。そして、私は議長のすぐ後ろに座っていたんだ。当時は、室内で煙草を吸うのは法律で禁じられていなかった。もっとも無礼だと思われていたけどね。
私ですらそう思ってた。それに、葉巻を吸う人をうらやましいとは、ちっとも思わなかった。ボルカー議長の葉巻は安物で、吐き出した煙は、車のシートを燃やしたような嫌な匂いがしたからね。だが、本人は気にしていなかった。少なくとも当時はね。それから何年かして、葉巻はやめたそうだが。
それはともかく、本題はこれじゃない。法律上、FRBの親玉は議会だが、議会には535人もの議員がいる。しかしFRBのトップは、時にやるべきことをやり、煙を吐き出して、煙に巻かなくちゃいけないこともある、ということなんだ。
BB:つまり、FRBがベア・スターンズの一風変わった資産を担保に、一風変わった融資をしたのは、そういうことだってこと?
PM:そうじゃないよ、バンバン。その通りなのかもしれないけど、FRBは、資産がどれだけ風変わりなものだったか、詳細を開示していないのだから、本当のところは分からない。だけどFRBは、特にベン・バーナンキ議長は、聞く耳を持つ人にも――持たない人にも誰に対しても、こうした融資をするのは本意ではなく、二度としたくないって明言しているんだ。
その理由は、資本主義の金融システムを債務デフレという病から守るために、メイデン・レーンの融資が必要でなかったからじゃない。その融資は、金融当局ではなく、財政当局が行なうべきだったからだ。議会の同意を得たうえで、そして議会が有権者の同意を得たうえでね。バンバン、君に分かりやすく言うと、ワシントンでパパ銀行に相当するのは、中央銀行ではなく財務省のはずなんだよ。
BB:すごく面白いわ。リー・マンとかいう奴が破綻しそうになった時、FRBが融資を拒否したのは、ベアの傷んだ資産を担保に融資したことを後悔したからなの?
PM:リー・マンじゃなくて、リーマンだよ。それに、ベアへの融資を後悔しているかどうかは、私には分からない。分かっているのは、FRBにとっては不本意だったということだ。だから、リーマンの傷んだ資産を担保に融資するかどうか決める段になって、問題になったのは、ベアの資産に比べて、どれだけ傷んでいるかだった。ベン(=バーナンキ)議長と、ニューヨーク連銀のティモシー・ガイトナー総裁は、傷みすぎているので、パスすると決めた。ボルカーだったら、やらないことはやらない、と言ったかもしれないね。
BB:その時、どうして財務省が前に出て、融資しなかったの? あなたの説明だと、法律上、金融当局ができないことも、財政当局にはできるんでしょう? どうして財務省は、リーマンを破綻させて、振動器を振れさせるようなことをせずに、振動器の電源を切らなかったの?
PM:これも、正確なところは分からないんだよ、バンバン。だけど、基本的に財務省は、そうする明確な権限を議会から与えられていたわけじゃない。少なくとも、ポールソン財務長官はそう言っている。フルシチョフみたいに、靴で机を叩きながらね。
たとえば、外国為替安定化基金を使うといった方法を、ポールソン財務長官は思いつけただろうか? この基金は500億ドル近い財源があって、ドルの暴落を防ぐといった目的で、財務省が使うには議会の承認が必要だ。ポールソン長官は、後になってマネー・マーケット・ミューチュアル・ファンドの保証プログラムを創設するのに、この基金を活用した。つまり理論的に考えれば、リーマンを破綻させないためにも使えたかもしれない。私は現場にいたわけじゃないから、何とも言えないが。私なら絶対そうしただろう。だけど、そんなことを言ったところで、資金がなければコーヒー1杯分の価値もない。
BB:それでリーマンが破綻した。そして、ベアの破綻を回避しようと決めた時に心配したように、金融システムがイカレちゃったのね?
PM:さっきの私の言い方は、ちょっと大袈裟だったかもしれない、バンバン。だけど、君の「オッカムのかみそり」の結論は、大体は正しい。
BB:そんな名前のかみそり、聞いたことないわ。ジョニーが6週間おきに、固いあごヒゲを剃るのに使っているのは、「ジレット」のかみそりだった思うけど。「オッカムのかみそり」って何? リーマンが破綻して100日あまりですっかり老けたあなたと、どういう関係があるの?
PM:「オッカムのかみそり」は、ヒゲを剃るためのもんじゃない。14世紀から伝わる論理の方法のひとつなんだ。簡単に言えば、質問に答えたり、問題を解決したりする時には、本質的でない議論はすべてそぎ落とした方がいい、ということだ。まさに、君が見事にしたことだよ、バンバン。リーマンが破綻した後の出来事は、政策当局がベアの破綻を回避した時に懸念したことだ、と君は言ったね。その通り、世界の金融システムが全面的に凍結したんだ。
BB:それで、その間隙から生まれたのがTARP(不良資産救済プログラム)でしょう? FRBにそうする力がない時は、電源を切る必要のある振動器の電源を切るための権限と資金を、財務省に与えるの。
PM:まったく、その通りでございます、お姫様。君はなんて賢いウサギだ。間隙とは、言いえて妙だ。君の前で使ったことはないと思うが、どこで習ったんだい?
BB:インターネットで探したのよ。あなたがコテージに行っている間に、この家での生活を表現するのにぴったり。ピンときたのよ。
PM:なるほど。では、本題に戻ろう。TARPについては、議会で散々揉めたし、いまだに揉めているけど、財務省のこれまでの活用の仕方を見ていると、これで、システミック・リスクに対する連邦政府のセーフティーネットの穴が本当に埋まったと思う。これによって、FRBができないところまで、財務省は踏み込むことができる。資本主義の金融システムを継続維持するのに必要とあれば、文字通り、誰に対しても、何の担保に対しても融資できる。あるいは、誰に対しても、何の担保がなくても、資金を注入することもできるんだ。
BB:だとすると、これは21世紀の社会主義か福祉制度? それとも、そんな区別は必要ないの?
PM:バンバン、君は質問する端から自分で答えていくんだから、私は答えようがないよ。でも、そうだ。君は現状を言い当てているよ。私の趣味から言えば、社会主義という言葉が性に合うが、その中に福祉の核心も含んでいる。なんと名づけようと、TARPは、資本主義の見えざる手を支えるために、財務省の見える拳が新たに手にした壮大な道具だといえる。
BB:拳ですって? 納税者の差し出す救いの手と言ったらどうかしら?
PM:そこまでは行かないよ、バンバン。現大統領の父がよく言っていたように、賢明じゃない。それは、あるがままのものなんだ。この頃は、受け入れ難いが、そうせざるをえないことを擁護するために、誰もがそう言ってるようだよ。
BB:要するに、リーマンの破綻の外部性に明るい面があるとすれば、こういうことかしら? 政策当局がついに社会主義者の魔法を発見し、民間セクターが正反対の動きをとるようになった今、それに見合う以上のペースで借入を増やし、バランスシート上のリスク資産を増やすために必要な法律を整備したと?
PM:「それに見合う以上のペースで」というのが、うまい説明だね、バンバン。それこそが、資本主義が本質的に抱える債務デフレの病から救うのに必要なものなんだ。債務引き下げのパラドックスと、倹約のパラドックスは、資本主義がそれ自体では耐えることのできない重荷なんだ。この重荷を取り除けるのは、ミンスキー流の解決策しかないんだ。
BB:あー、ミンスキーね。いつかミンスキーの話が出てくると思っていたわ。唯一の問題は、あなたがどれだけミンスキーを持ち出さないで我慢できるかってことよね。ミンスキー教授については、最近、いっぱい話したわね。順過程の終わりには、あの有名な、というか悪名高いミンスキー・モーメントが訪れ、その後、逆過程が始まるのだったわね。でも、ミンスキー流の解決策というのは、思いだせないわ。後悔するのは分かっているけど、思いださせてくれるかしら?
PM:よくぞ聞いてくれました、お姫様。われわれのおしゃべりに耳を傾けている人の中には、君同様、私にミンスキーの話をさせるのをためらう人は多いだろう。そういう人たちや君に敬意を払って、私は昔ながらのことわざ「一枚の絵は、千の言葉に勝る」を実践しよう。下の図は、私の同僚であり友人のラミン・トルーイがまとめたもので、たった今、ミンスキーに関して知っておくべきことが、漏れなく描かれている。
BB:なんて親切なのかしら。私をどこまでも甘やかしてくれるのね。グラフを見ると、2003年からミンスキーの順過程が始まって、ヘッジから投機、ポンジー金融へと、どんどんリスクの高いステップを踏んでいるわ。影の銀行システムが、爆発的に大きくなっている。そして、ミンスキー・モーメントが2007年8月に訪れたのね。
そして、ここから逆ミンスキー過程が始まる。影の銀行システムが急激に縮小していくにつれて、ポンジー・ユニットが消滅し、投機的ユニットは事後的にポンジー・ユニットになり、ヘッジ・ユニットですら痛い目に遭う。そして、ミンスキー流の解決策と呼ばれる新たな対策がとられ、ようやく痛みが治まる。その後、いわゆるリフレーションが続く。
でも、このグラフには、これが起きる正確な日付が書いていないわ。私たちは、どこまで行っているのかしら? 痛みは治まるの? たとえば今は?
PM: うまく整理して、要点をまとめたね、バンバン。私が知らない間に、リーダーのためのコミュニスポンドのオンライン講座で勉強したのかい?
BB:違うわ。パソコンで、かっこいい言葉を見つけただけよ。私を連れ出してくれないから、コミュニスポンドのダンスのステップを習う必要はないわ。
それに、はぐらかすのは止めて。このミンスキー流の解決策というのは、さっき、話題になった、「それに見合う以上のペース」の社会主義的な対応のことだと思うんだけど、違うかしら?
PM:まさしく。君がウサギじゃなかったら、バッタと呼ぶところだよ。ぴょんぴょん飛ぶからね。それが、まさにミンスキー流の解決策なんだ。政府は、民間セクターが減らしているリスク許容や支出を増やすだけなく、さらに踏み込んで、民間セクターのリスク資産と財やサービスの総需要をどちらも喚起するリフレの起爆剤を提供するんだ。
BB:なるほど。バッタと呼ばれるのはゾッとするけど、言ってることは分かるわ。それで、私の質問に対する答えはどうなるのかしら? 私たちは、もうそこまで来てるの? もし、そうだとしたら、すべての善良な市民はTビルを売り、ウサギは缶詰のグリーンピースを売って、割安になっている社債や株式を買うべきじゃないのかしら?
PM:バンバン、グラフに日付を入れなかったのは、正確なタイミングを答えるのを避けるためなんだよ。私に言えるのは、機は熟してきている、ということだけなんだ。FRBは今や、リフレ政策を総動員しているからね。従来の融資制度の拡充にとどまらず、TARPの予算を手にした財務省と組んで融資を拡大している。TARPの資金は、事実上、政府支援の影の銀行である新たなSPV(特別目的会社)にエクイティを提供するために使えるんだ。
こうした政策総動員の最たる例が、最近発表されて、2月からの実施が予定されているTALF(ターム物資産担保証券貸出制度)だ。財務省が200億ドルの株式を発行し、FRBが財務省の資金より優先順位の高いローンで、最大1,800億ドルを融資する。
TALFは、リスクを回避している商業銀行システムを迂回し、新規の消費者ローンや事業ローンの証券化の資金を、直接、供給することになる。これは、実に優れたイノベーションで、今後は、拡充したり、類似の仕組みがつくられたりする見通しだ。そして、何より重要なのは、これがリフレを軌道に乗せると見られることだ。
FRBは既に、6,000億ドルの紙幣を増発して、政府系機関のMBS(モーゲージ担保証券)5,000億ドルと、政府機関債1,000億ドルを直接購入することになっている。長期のモーゲージ金利を引き下げ、低位で安定させることが目的だ。債券の買い入れは既に始まっており、MBSの買い入れも、数週間のうちに始まる見通しだ。
そして、FRBは長期金利をさらに引き下げるために、必要とあれば、紙幣を増発して、中・長期物の米国債を買い入れることに前向きだ。私の友人のコリン・ネグリッチが主張し、予想した時、世間からバカにされたけど、無リスク金利の指標である長期米国債の利回りを2%にすることほど、民間セクターの資産の価値を上げるのによい方法はない。
BB:でも、ベン(バーナンキFRB議長)のヘリコプターは、どこにお金をばら撒くの?
PM:バンバン、私が「ヘリコプター・ベン」の話が嫌いなのは知っているだろう? 安っぽい言いがかりだ。2002年11月の有名なスピーチの原稿を実際に読んだことのない人たちの、安っぽい言いがかりだよ。このスピーチで議長は、偉大なミルトン・フリードマンが編み出したデフレ阻止の技術――紙幣増発による減税について論じているんだ。
つまり、私の見方では、オバマ次期大統領も約束しているリフレ的な財政政策の総動員を推進するための財源として、FRBが必要な紙幣を増発する用意は整っている、というのは紛れもない事実、輝かしい事実なんだ。天国から、ハイマン・ミンスキーの歓喜の涙がこぼれているよ。
これは喜ばしい、じつに喜ばしいことだ。金融当局と財政当局は、独立を保ちながら手を携えて、政策を総動員するんだ。リフレーションが牽引力を得るという私を、慎重な楽天家と呼んでおくれ。
BB:マック、そういう言い方は嫌い。絶対に嫌よ。そういう言い方はよせって教えたのは、あなたでしょう? 慎重な楽天家って何? あなたは慎重なの? 楽天家なの? どっちなの?
PM:これは一本取られたな、バンバン。政策当局が適切なリフレ政策を実行する意思があることを考えると、「慎重な」を外してもいいと思う。私は、まったく楽天家だ。でも、慎重に考えれば、最善のリフレ政策といえども、少なくとも短期的にはうまくいかない可能性がある、ということを認識しておかなくてはいけない。
BB:うまくいかない可能性があるのに、どうして「適切なリフレ政策」と言えるの? 総動員というのは、すべてひっくるめて、という意味じゃないの?
PM:そうだよ、バンバン。だけど、それで、すべてのセクターのすべての企業が繁栄しなければいけない、という意味ではないんだ。「適切なリフレ政策」というのはマクロ経済の概念で、必ずしもミクロ経済にあてはまらない。社会主義者の救いの手を、資本主義の世界の隅々にまで差し伸べる、ということではないんだよ。
適切なリフレ政策とは、資本主義を排除することではなく、資本主義が内包する債務デフレの病から体系的に救うことなんだ。思い出して欲しいんだが、資本主義のミクロの核には、創造的破壊と呼ばれるプロセスがある。古くなった技術や働き方から、より生産性の高い未来の技術や働き方に、資源を移すんだ。
BB:なるほど、ある程度は分かるわ。私の世界では、適者生存って言うわ。政府が自然の力を覆そうとしても意味はない、というのは、私も賛成だわ。でも、政府が、あらゆる生き物を焼き尽くすおそれのある山火事を消そうとするのは、意味があることだと思うけど。そうじゃないかしら?
PM:見事な表現だよ、お姫様。じつに見事だ。微妙なバランスが取れている。
BB:ありがとう。あなたの投資の世界で喩えれば、森をロング・ポジションにするということだと思うの。政府は、デフレの炎が森を焼き尽くすのを防ごうとしていて、同時に、特定の生き物を守るために、特別な対策を取っているからよ。これで、合っているかしら?
PM:まさしく。全面的に賛成だよ。ただし、少しだけ細かい点を付け加えるといい。資本主義経済という森を救うには、政府が必然的に救わなくてはいけない生物がいる。適切な投資戦略とは、森全体にも、こうした生物にもロング・ポジションを取るものだ。
BB:異論はないわ。で、ロング・ポジションを取るものを言ってみて。
PM:PIMCOでは、何か月も前からずっと公にしてきたよ、バンバン。必ずしも、特定の銘柄ではなくて、その銘柄の特徴だけど。もっとも重要なのは、政府の明確な支援だ。顕著な例が、銀行が発行する債券で、その銀行が、三層にわたる厚い保護を与えられている場合だ。財務省による資本注入、FDIC(連邦預金保険公社)による債務保証、FRBの流動性供給制度の利用、という名のね。
BB:でも、それ以上に少し大胆になる時期なんじゃないかしら? あなたが論文に書いていたように、アメリカの資本主義経済が今後も継続維持されるものだとするならば、資金の一部を、大型株や債券インデックスに投資して相場が下がれば買い増していくのも悪くないんじゃないかしら? もちろん、この方法だと、創造的破壊プロセスで絶滅の危機に瀕している、個別の企業を間接的に買うことになるのは、分かっているわ。でも、歴史はそういうものじゃないかしら?
PM:君と議論することはできないよ、お姫様。君が提案した戦略は、総動員のリフレ政策と完全に合致する。ただし、それでも注意が必要だ。私は、株式よりも社債を重視するだろうな。主要メディアにはほとんど取り上げられていないようだが、今年(2008年)は、リスクとボラティリティの調整後で、高格付けの社債が、優良企業の株式以上に値下がりしているんだ。
BB:マック、あなたがようやく私のように考えてくれて嬉しいわ。あなたは時々、物分かりが悪くて、完璧を求めて、いいものをつかめなくなるから。私のために、慈善団体モルガン・ル・フェイ・ドリームズ財団のポートフォリオでの取引を考えて。
PM:お望みのようにするよ、バンバン。それから、今は亡き先代のペットウサギ、モルガンを思い出してくれ、モルガンのポートフォリオがうまくいくように指示してくれたことに感謝するよ。運用がうまくいけば、今後もモルガンの財団は善いことができるんだ。たくさんの善いことがね。素敵な考えが出たところで、このおしゃべりを、モルガンのお気に入りのお祈りの言葉で、締めくくろう。それを言う役は、君に譲るよ。
BB:ありがとう、マック。
主があなたを祝福し、あなたを守られますように。 主の御顔があなたを照らし、あなたを祝福しますように。 主が御顔をあなたに向け、平安が与えられますように。
主があなたを祝福し、あなたを守られますように。
主の御顔があなたを照らし、あなたを祝福しますように。
主が御顔をあなたに向け、平安が与えられますように。
ポール・A・マカリー
マネージング・ディレクター
2008年12月23日
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