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Global Perspectives
リチャード・クラリダ | 2007年3月

オイルダラー、貯蓄の減少、そして米国の経常赤字

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国際金融は魅惑的なテーマである一方、難しいテーマでもあり、数多くの要因が流動的かつ相互に絡み合っています。為替レートは上下に変動し、資本は流入と流出を繰り返し、貯蓄と投資は常に一致するわけではありません。経済的均衡は世界的な概念であって、一つの国の中で完結する概念ではありません。たとえば、ドイツ国債の利回りに対するFRBの影響力は、時としてECBのそれよりも強くなる場合があり、また、日本の量的緩和がロンドンの為替市場に影響を及ぼす可能性があるといった具合です。

 

現在、国際金融の分野で最も活発に議論されるテーマの一つに、米国の経常赤字があります。この問題に関しては赤字が拡大しているかどうかではなく、赤字が拡大してきた理由が論点になっています。経常赤字は単に米国の支出が過剰で貯蓄が不足した結果だとする見解があります。しかし、世界的な「貯蓄過剰」、すなわち、世界的に収益性の高い投資機会に対して貯蓄過剰である状態が、近年の米国の経常赤字の拡大に大きく寄与していることを示す動かし難い証拠もあります。

 

現在の世界的な景気サイクルは、2004年以降の米国の経常赤字の急増や最終的な住宅バブルの膨 張、そして米国の家計貯蓄率の低下が、いずれも一つの現象から派生したものであることを強く物語っています。その現象とはオイルダラーの還流です。今回のレポートでは、貯蓄過剰が実際に存在することを示す証拠を振り返り、石油価格が2004年から2006年に貯蓄過剰に対しどのような影響を与えたのかを分析します。そして、世界的な貯蓄過剰からどのように米国の貯蓄不足と経常赤字が生み出されたか、また、この貯蓄過剰は今後の債券市場にどのような影響を与えるのかを検証します。

 

石油との関連

過去数年間で米国の経常赤字額は石油輸入額そのものになりました。チャート1が明らかに示すように、この数年、世界的にみて経常黒字が最も大きく増加しているのは石油輸出国です。

 

                

  

 

 また、この数年産油国の経常黒字が拡大する一方で、米国の経常赤字も一層拡大したことも分かります。事実、こうした石油関連の黒字と米国の経常赤字の間には高い相関がみられます。次のチャート2は、米国の石油を除いた貿易赤字と、米国の貿易赤字合計額とを比較した、両者の関係を表しています。20043月から20067月までの期間、石油を除いた貿易赤字は比較的安定していたのに対し、貿易赤字合計額は大幅に悪化しました。このチャートは米国の経常赤字ではなく、貿易赤字を示していますが、ここで検証している期間の場合、経常赤字と貿易赤字の差異はきわめてわずかです1 

 

                  

 

実際、20043月から20067月までの米国の石油輸入額の増加分は、貿易赤字の増加額とほぼ一致しています。20045月の段階で、米国の石油を除く貿易赤字は1ヵ月あたり約390億ドル年間で5000億ドルで、貿易赤字合計額は1ヵ月あたり約480億ドル年間6000億ドルでした。輸入石油価格が1バレル30ドルから70ドル以上の水準に上昇したことを受け、貿易赤字は石油輸入額の増加分とほぼ同じだけ拡大しました。原油価格が1バレル77ドルをつけた20067月には、石油を除いた貿易赤字が月410億ドルと、20045月とほとんど変わらない水準を維持した一方、貿易赤字合計額は月680億ドルに増加しました8400億ドルペース

 

上の各種チャートは産油国の経常黒字と米国の経常赤字の間に連動性があることを証明する強力な材料であるといえます。この両者を結びつけるメカニズムは確立されていませんが、バーナンキFRB議長が20053月の講演で使った、世界的な「貯蓄過剰」こそ、そのメカニズムであると考えられます2。投資に対して世界的に貯蓄が過剰であることを指摘することにで、バーナンキ議長は前任者のグリーンスパン前議長が提起した世界的な低金利の「謎」の回答を提起したのです。

 

 

過剰の特定

 

貯蓄過剰を経済指標から直接的に特定することはできませんが、経常収支統計を金利やクレジット・スプレッド、フォワード実質金利の動きと突き合わせると、貯蓄過剰の存在を示す証拠が得られます。

 

経常収支はいくつかの方法で表現できますが、貯蓄過剰の存在を確認するには、最初にその対象となる国の貯蓄と投資の観点から、貯蓄過剰を定義する必要があります。貯蓄は個人、企業、公共部門それぞれの貯蓄で構成され、投資は企業投資と住宅投資で構成されます。私がこの先も何度も引き合いに出す経常収支の定義は以下の通りです。  


                                               経常収支=貯蓄-投資

 

これを言い換えると、経常収支はすべての投資が行われた後に残る貯蓄と等しくなるということです。投資が貯蓄を上回れば、その国の経常収支は赤字になり、その赤字は国外からの資本流入によって補填しなくてはなりません。そこで、米国の経常赤字は定義上、常に米国を除いた世界全体の経常黒字全体と一致しており、上のチャート1に示されたとおりです。

 

バーナンキ議長が初めて「貯蓄過剰」という概念を持ち出した際、多くの懐疑派はそれが米国の経常赤字の一因になっている可能性すらないと考え、主に次の2つの主張を展開しました。第一に、懐疑派はエマージング諸国と産油国のGDPに対する貯蓄フローの割合は2004年の段階で10年前とほとんど変わっていないことを取り上げ、貯蓄過剰の存在自体を否定しました。次に、懐疑派はたとえ世界的な貯蓄過剰が存在する場合でも、貯蓄過剰が米国の経常赤字に繋がっている直接的なメカニズムはないと主張しました。

 

基本的に、懐疑派は「世界的な貯蓄統計の中にみられないとすると、世界的な貯蓄の超過はどこに存在するのか」と尋ねていたわけです。いうまでもなく、その答えは貯蓄データではなく経常収支データにありました。

 

近年の米国の経常収支悪化の背景には、米国内の貯蓄が独自に減少したことや、投資ブームがあったと考えた場合、この赤字を補填するに十分な資本を外国から呼び込むために、米国の金利は上昇し、クレジット・スプレッドは拡大しなくてはならないということになります。しかし、実際はそれと反対の現象が生じています。つまり、経常赤字が拡大するにつれ、金利は低下し、クレジット・スプレッドは縮小してきました。チャート3は、米国の経常収支と米国TIPS市場のフォワード実質金利の間に密接な相関があることを示しています。

 

                   

 

米国の経常赤字の拡大と金利低下の同時発生を説明するには、諸外国の投資家が高い利回りを要求することなく、米国資産に積極的に投資してきた理由を解き明かす必要があります。

 

それを最も単純に説明できるのが、低水準の長期金利というグリーンスパン前議長が投げかけた謎を解明する要因であると考えられる世界の貯蓄過剰です。この見方によると、世界の過剰な貯蓄は米国に流入し、米国金利とリスク・プレミアムを低下させているということになります。そして、金利の低下により、米国の投資と消費が刺激され、それが経常赤字の拡大につながっています。ここまでの説明は筋が通ったものであると考えられますが、依然として解明しなくてはならない問題は残っています。具体的にいうと、20043月から20067月の石油価格の急騰を米国の個人消費はどのように乗り切ってきたのかという問題です。かつてオイル・ショックが発生すると、米国経済はリセッションに陥ったものです。そして、このリセッションが経常赤字を縮小させることが一般的でした。しかし、今回は個人消費が底割れすることなく、経常赤字はさらに拡大しました。何が起きたのでしょうか。

 

石油、貯蓄、そして経常赤字

石油価格の上昇と経常赤字の拡大の高い連動性は直感的に理に適っていると考えられます。石油への需要は非弾性的であるとの推定により、石油価格と経常赤字は連動すると予想されるためです。この議論で問題となるのは、過去に石油価格が急騰した局面で7475年、7980年、9091、経常赤字が大きく拡大しなかったことです。実際に、1975年と1991年に米国は経常黒字を達成しており、197980年の経常赤字も低水準にとどまりました。いうまでもなく、米国ではこうしたオイル・ショックによりリセッションが発生しました。では、貿易赤字が拡大し、石油輸入額が上昇する中、米国の堅調な需要の伸びが維持されてきた最近の動きとは何が異なっていたのでしょうか。

 

FRBが「かなりの期間」にわたってFF金利を1に据え置いたこと、そして「慎重なペース」で利上げを続けてきたことが、2004年から2005年にかけて景気を下支えしたことは確かです。しかし、原油価格が1バレル6070ドルになっても景気が堅調を維持したことは、FRBにとっても意外であったと推察されます。興味深い点として、石油価格の上昇が米国経済に与える影響について分析した2002年の財務省の研究によると、1年間にわたって1バレル50ドルの原油価格が続くことを「最悪のシナリオ」と想定しており、その場合、経済成長率が1低下すると推計されています。しかし、実際には、石油価格が最高値に向けて上昇する局面で、FRBが利上げを停止することはありませんでした。そのため、私は近年の石油価格と米国資産に対する国外からの投資、そして米国の経常赤字の間にみられる密接な結びつきを生み出した原因は別にあると考えています。それが世界的な貯蓄過剰です。 

 

貯蓄過剰の観点からデータを解釈した場合、次のようなプロセスが展開すると考えられます。第1に、世界的な石油需要の強さにより、石油価格が押し上げられます。次に、オイルダラーが世界の資本市場に還流、実質金利を低下させ、信用スプレッドを圧縮します。そして第に、「謎」と称された水準にある実質金利と低水準の信用スプレッドが米国の企業投資と住宅建設投資を刺激する一方、貯蓄の魅力を低下させ、還流されるオイルダラーを吸収できる経常赤字が生み出されることになります。表1はこの解釈の裏づけとなるデータを示しました。

 

          

 

 

この表によると、2004年第1四半期から2006年第2四半期までに、米国の経常赤字は2810億ドル拡大しました。すでに触れた通り、この間の経常収支の悪化はすべて石油輸入額の増加に起因すると考えられます。一方、この10四半期間で全体の貯蓄は増加しています。これは高水準のキャシュフローにより、企業の貯蓄が1910億ドル増加したことに加え、連邦政府と州政府、地方政府が財政赤字の削減を進めたことにより、公的部門の貯蓄が2460億ドル増加したためです(双子の赤字に関する説明はこれくらいにしましょう)。この4370億ドルに達する企業部門と公共部門の貯蓄の増加は、グロスでみたこの10四半期間の米国の投資の増加額4550億ドルにほぼ匹敵しています。この2年半の間、家計の貯蓄が3900億ドルで横ばいであれば(そして、その結果、この期間を通して12%上昇した名目GDPに占めるシェアが低下したとすると)、経常収支はほとんど悪化しなかったことでしょう。しかし、実際の経常収支はこの間に悪化しており、石油輸入額の増加と密接に連動して、家計の貯蓄が減少したことを示しています。言い換えると、石油輸出国の過剰な貯蓄が石油輸入額の増大と経常収支の悪化をファイナンスするには、米国の家計の貯蓄減少が必要であったということです。表1が示すように、正味でみた米国の個人貯蓄は2005年第2四半期にマイナスに落ち込み、少なくとも石油価格が最高値をつけた2006年第2四半期まで、マイナスのまま推移しました。

 

現在、米国の貯蓄率にはエコノミストが把握し切れていない部分が数多くありますが、貯蓄がマイナスになることが滅多にないことは、多くの人が理解しています。米国の正味個人貯蓄率は2005年と2006年にマイナスを記録しましたが、実際のところ、これは大恐慌時代以来のことです。これは偶然でしょうか。私はそうではないと思います。事実、私は貯蓄過剰がオイルダラーの還流に後押しされる形でマイナスの貯蓄率に寄与し、このメカニズムが住宅バブルを生み出したと考えています。

 

            

 

チャート4GDPに占める住宅投資のシェアが2005年に戦後最高水準に達し、2006年下半期に住宅市場が悪化に転じるまで、きわめて高い水準を維持したことを示しています。そして、家計は住宅価格の上昇から得られた富の一部を支出に回し、この住宅ブームは個人消費を支えてきました。住宅投資がGDP3から6に急上昇したことで、この住宅ブームは経常収支に直接的な影響を及ぼす一方前掲の、経常収支=貯蓄-投資、資産効果と貯蓄の減少を通して個人消費を押し上げるという、間接的な影響も及ぼしました。そして、謎と呼ばれた低い長期金利が住宅ブームと信用スプレッドの縮小を支えてきました。この長期金利の水準と縮小した信用スプレッドの少なくとも一部は貯蓄過剰がもたらしたものであり、特にオイルダラーの還流を通して実現されたものです。21世紀の世界の資本市場は「資本収支」が「経常収支」を左右する、いわば本末転倒な状態です。

 

投資にとっての意味

石油価格が2006年夏の最高値から大幅に下落する一方、2007年の米国経済は趨勢成長率を下回ることになると考えられることから、米国の経常赤字は今年、縮小に転じる可能性が高いといえます。また、原油価格が75ドルから60ドルに下落したことで、還流されるオイルダラーは減少することでしょう。このように、流入資本に対する米国の需要が低下する一方で、世界の金融システムに放出されるオイルダラーも減少します。こうした状態の中、金利と信用スプレッドにはどのような影響が及ぶでしょうか。

 

金利に関して、私はオイルダラーの減少と外国資本に対する米国の需要の低下とは、ほぼ相殺されるものの、米国の債券利回りにはスポット、フォワード共に、ある程度低下バイアスがかかるとみています。米国の成長率が趨勢成長率を下回ることと、個人貯蓄率がプラスの水準を回復するとみられることは、石油価格の下落に起因する米国へのオイルダラー流入額の内生的な減少よりも強く影響するはずです。しかし、信用スプレッドに対する影響はより不透明です。石油価格の下落はオイルダラーの還流を減少させる一方、非産油国が還流させなくてはならない貿易黒字を増加させ、両者の影響力は相殺されるとする考え方もあるでしょう。しかし、私は信用市場にとって、オイルダラーの還流による新規流入額の減少が穏やならざるものになる可能性があると考えています。石油がもたらした余剰資金は石油輸入業者の黒字となるよりも、スプレッド商品に多く配分されていることを物語る証拠があるからです3



1   経常赤字は貿易赤字と国境を越えた投資所得収支を合計したものです。近年、この資本収支部分はきわめて小額であり、経常収支の変動のほぼすべてが貿易収支の変動によるものとなっています。

2  バーナンキ議長の講演により、この問題についての関心が高まったものの、この観点から世界的な不均衡について探ろうとする他の動きもありました。たとえば、私は2004年10月に、日本と中国、米国の経常赤字について、ワシントンのCato Institute Monetary Conferenceで講演を行い、次のように述べました。「米国の経常赤字は総合的な均衡現象であり、その一部にはバブル後の世界において、収益性の高い投資機会に対する世界的な貯蓄過剰を反映していることを認識することは重要です。国際金融では、国際的な資金フローにとって相対的なバリュエーションが重要になります。現在のような、投資に対し、貯蓄の供給が世界的に過剰となる状況では、国際的に移動する資本の余剰分を一部の国や地域が吸収しなくてはなりません。こうした見方を裏づける材料として、実質金利を含めた世界的な金利水準が過去の水準と比較してかなり低いことを挙げることができます」。

3 オイルダラーの還流に関して、最近の分析としてはラミン・トゥルーイ著2007年Capital Perspectives 『Petrodollars, Asset Prices, and the Global Financial System』をご覧ください。第二次ブレトンウッズ体制と貯蓄過剰の動向に関する最近のPIMCOの見解については、ビル・グロース著Investment Outlook 2006年6/7月号『ミッション・インポッシブル』、2006年8月号『歴史の終わりと最後の債券上昇局面』、ポール・マカリー著 Fed Focus 2004年3月号『2倍の効用』をご覧ください。
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